ホラーゲームの恐怖を演出する手法

ホラーゲームの怖さの演出について
書いておきたいことがある
(ホラーゲーム限定……!?)


さて、今回はホラーゲームを直撃する失敗パターンの話をします。ものづくりに対して「失敗」と書くのはちょっと抵抗があるのですが、中高生がとても勘違いしやすいので書かねばならない気持ちがあるのです。ホラーゲームを作りたい!というゲーム開発初心者は多く、また失敗してきた人もいるのでグサッと来る人がいるかもしれませんが、決して貶めるためではなく、どうするべきなのか?を主題に書きます。

「青鬼」を3Dゲームでやると失敗する?

青鬼って何すか?
大ヒットした個人制作の
ホラーゲームだね



画面をまたいでも追いかけてくる青鬼。中高生を中心に、ニコニコ動画やYoutubeをきっかけに大ブレイクした



正体不明の敵(青鬼)が追いかけてくる。当たると死ぬ。その怖さが青鬼の面白さだ。しかし実際に青鬼のようなゲームを作ろうとして、うまくいかない場合は多い。失敗の原因は、「青鬼」は2Dだから成立する要素が多く、3D空間で同じ面白さを出すのはとても難しいという点にある。以下に理由を書く。

  • 3D空間では敵の位置がわからない
視界の外から襲われると何だかわからないうちにやられてしまう。

  • 3D空間ではプレイヤーと敵との相対位置がわからない
敵から逃げても、敵を振り切ったのか、まだ追われているのかがわからない。

「敵がいた!逃げろ!
 追ってくる!無事に逃げられた!」

……という一連の流れが
3Dゲームだと表現が難しいんっすね

3Dは視界が限られるので「どこかから追われる・逃げなければならない」表現が難しい

解決策その1:攻略方法がわかるようにする

「敵の視界に入らないように動く」のはよくある手法だ。ゾンビとか警備員がうろうろしているが、敵の視界に入らなければ襲われない。敵の動きや視界を読みつつ、クリアを目指すというもの(ステルスアクションゲームとか呼ばれる)。

隙を突いてプレイヤーが敵を攻撃・撃退できるというのもステルスアクションのよくあるパターン。敵に見つかると襲われる・苦戦するが、後ろから忍び寄って攻撃すれば一撃で倒せるというやつだ。敵がゾンビなら、例えば隙をついて火をぶつけると倒せるといったアイデアがいいかもしれない(しかし敵の近くで足音を立てたら敵が振り向く、といったスクリプトも必要になる。このルールは、遊ぶ人によっては面倒くさいと思われてしまうかも)。

どちらも「こうすれば攻略できる」というやり方を示すことで、失敗しても次はうまくプレイできる、うまくプレイしたい、という気持ちに誘導している。失敗して、何が悪かったかわからないまま繰り返しやらされるとプレイヤーは飽きてしまう。

死んだらすぐにリプレイできると
いいっすね~
いちいち最初からやり直すのは
大変というか面倒くさいからね~


解決策その2:演出で怖がらせる

そもそもやりたいことはステルスアクションではなく「プレイヤーを怖がらせる」ことだったはずである。プレイヤーが恐怖を感じるのは、敵が襲ってきてやられる、というシチュエーションだけだろうか?

えっ 違うんすか?
色々なホラーゲームを
やってみるとそうじゃないことが
わかるぞ


プレイヤーが怖いのは「ゲームオーバー」ではなく、プレイヤー自身が「ビックリ」させられたり「焦って」しまったりすることにある。プレイヤーの感情に訴えるのが大事なのだ。

  • 何かが出てきそうな予感がする……そう思ってたら急に大きな音が出たり、何かが出現したりする
  • 安全が確認できたと思って油断したら急に「怖い」表現や「ピンチ」に陥る
  • 逃げる途中、開くはずのドアが開かなかったり、車のエンジンがかからなかったりする


映画でも見たことあるっす!
こういうの、わかってても
怖いんすよねぇー


そめ先生が個人的に一番印象に残っているのは初代「バイオハザード」の、通路の窓ガラスから犬(ケルベロス)が襲ってくるシーンである。


この演出が「ビックリ」するには仕掛けがある。このゲームではゾンビが襲ってくるが、逆に言えばゾンビがいないところは安全なエリア。落ち着いてアイテムを使ったり、探索や謎解きをしたりする。そんな中で、ゾンビのいない通路をただ通過するために移動しているところ……その油断したところになんとステージの外側から、けたたましく窓ガラスを割って犬ゾンビが入ってくる!そして攻撃的な音楽が鳴り出す!

これにビビらなかった人いるの……。


まさに「安全だと思って油断した」ところを直撃する演出である。この犬ゾンビ、実はあまり強くないので落ち着いて銃を撃てば倒せるのだが、そんなことより「怖い」のだ。普通のゾンビよりすばしこいのもあって思わず焦ってしまう。

そしてこれ以降、恐怖心を植え付けられたプレイヤーは常に緊張しながら屋敷内を探索しなければならなくなる。犬ゾンビが窓を割って1回出現しただけで、これ以降はゾンビがいないところでも安心できなくなるのだ。こうなっていよいよ「薄暗い洋館を探索する」のが怖くなるわけだ。

だから、急に襲われたからといって大ダメージを受けたり、即死する必要はない。一瞬で死んだら恐怖するヒマもない。むしろ死なないがゆえに犬に吠えられて怖いし、なんとか倒そうとして焦るのである。

恐怖をあおる音の演出

ホラーゲームでは音が重要だ。多くのホラーゲームでは、最初からオドロオドロしいBGMは鳴らない。静かで、プレイヤーの足音やドアの開閉音だけが響く。だから急に大きな音が鳴ったり、警報や攻撃的なBGMが鳴り出すとビックリする。また、うめき声やプレイヤー以外の足音が鳴ると警戒する。音の緩急がキモなのだ。

ゾンビがうじゃうじゃ襲ってくるより
急に襲われる時の方が
怖いっすね
ずっと緊張させられるより
緩急が大事なんだな



この緩急の付け方は、実はホラーゲームに限らず多くのゲームで取り入れられている。ボスを倒したらまたザコ敵との戦いになったり、町に着いたらいったん安全になったり、パズルゲームで勝ち進むといったん難易度が易しくなったり……という具合だ。ゲームバランス(レベルデザイン)を作る上でぜひ意識してみてほしいぞ!